
日本のトップ社会学者、大澤真幸先生が熱弁
日本が、なぜ今、大きな光を見出せずにいるのか
「世界に誇れる力を持っている日本が、なぜ今、大きな光を見出せずにいるのか――?なんとかして停滞した状況を打破したい」
そう渇望している経営者は少なくないに違いありません。
しかしいざ、自分が、企業や社会の未来に向けての舵取りを任され、大きな決断に迫られたとしたら――?
「つい弱気が顔を出し、自分の選択は間違っていないか?今が本当に“その時”なのか?過去の成功者はどのような決断を下したのか?と、誰もが“歴史の神様”にお伺いを立てたくなる」と、社会学者の大澤真幸(おおさわ まさち)先生は語ります。
周囲の人たちを巻き込まざるを得ない大きな決断。一度決めたら後戻りはできない。そんな時に誰かに同意を求めたい気持ちは、ごもっとも。当然のことのように思えます。
しかし――。
「本当に、企業を、社会を変えたいのなら、誰かにお伺いを立ててはいけない。空気を読んでいるうちは、本当の変革はできません」。
大澤先生が言い切った言葉に、会場には驚きとも頷きともとれるどよめきが湧き起こりました。
Expert Caffe 社会大学構築プロジェクトの第3回ゼミナール
これは、10月3日に行われた、アルマ・クリエイションが主催するExpert Caffe「社会大学構築プロジェクト」の、第3回ゼミナールでのひとコマ。
「社会大学構築プロジェクト」は、専門分野を究めた学者の方々をお招きしてご講演いただき、アカデミックなお話の中から普遍的な教訓を得て、ビジネスに活かそうという取り組みです。
大澤先生は、理論社会学がご専門。東京大学大学院社会学研究科博士課程を経て、千葉大学文学部助教授、京都大学大学院人間・環境学研究科教授を歴任されました。
興味分野は幅広く、著書も多数。今回のテキストとなった『日本史のなぞ』(朝日新書)は2016年に出版され、各界から大きな注目を集めました。
日本社会を変えるには?――歴史から学ぶ
講演のテーマは、「日本社会を変えるには?――歴史から学ぶ」。
大澤先生曰く、日本社会はほとんど革命が不可能な社会。
その構造下にある日本企業もまた然りです。それでもなお、改革を成し遂げようとする時、必要なものは何なのか――。
講演で大澤先生がフォーカスしたのは、今からちょうど150年前に起きた、明治維新です。
大久保利通、西郷隆盛は、不利な状況に置かれながら、あえて周りの空気を読まずに戦いに挑み、結果、見事に勝利を手にして、明治維新の立役者となりました。
「クリティカルな局面では、“歴史の神様”の許可なしに事を起こせるかどうかが、勝敗を分けます。
神様に責任を転嫁してはいけない。覚悟を持ち、自分自身の責任で行動することが求められるのです」と大澤先生は述べました。
自分自身で大きな決断を下すためには、自信や自尊心が不可欠です。
近年、日本人は自信をなくしている
ところが近年、日本人は自信をなくしている、と、大澤先生は指摘します。
NHKが5年ごとに実施している「日本人の意識」調査によると、「日本は一流国だ」など、日本に対して自信を持っていると回答した人の割合は、1980年前半をピークに低下。
2003年以降は上昇に転じているのですが、大澤先生はこの状況をむしろ、「自信のなさの裏返し。空威張りなのではないか」と不安視しています。
日本人が自信を取り戻すためには、どうすればよいのか――。
歴史に目を向け、明治維新の創設行為を振り返ることは、そのためにも意義あること、と大澤先生は提言します。
近代化の大きな一歩を踏み出したという意味で、明治維新は成功した革命でした。
しかし一方に、欺瞞もありました。
明治維新を主導した下級武士たち
明治維新を主導した下級武士たちは、武士の自尊心が保たれる社会を目指していたにもかかわらず、近代社会が実現したとたんに、武士は無用の長物になってしまったのです。
それでも「これでよかったのだ」と自分を納得させるしかありませんでした。
つまり武士は、勝ち組にして、負け組。
現代日本人の深い共感の対象となっているのは、敗者としての新撰組、西郷隆盛、坂本龍馬ら。
それら敗者の願望を受け止め、実現させることができれば、日本人は初めて、偉大な社会を創設したという自己確信を得ることができるだろうと、大澤先生は言います。
クリティカルな局面を見極められるかどうか
そして、もうひとつ。変革を成功に導くには、「ここぞ!」というクリティカルな局面を見極められるかどうかが重要です。
「あの時こうしていれば……」と悔やんでも、後の祭り。行動のタイミングが勝敗を決するのです。
大澤先生は、将棋棋士の羽生善治さんを例に挙げ、「羽生さんの強さは、一手一手の上手さはもちろんですが、クリティカルな局面を見逃さないことにあります」と述べました。
日常の中のアクセントのように現れるクリティカルな局面――。
この出現に敏感に気付くためには、日頃の勉強を怠らないことに加えて、アンテナを磨き続けることが大切です。
講演後の質疑応答の時間には、史実をどうビジネスに応用することができるかという観点から多数の質問が飛び、会場は大盛り上がり。熱い雰囲気の中、時間いっぱいでの閉幕となりました。
ここからまた、アルマ発、産学共同の成果が生まれることに、期待が高まります。